JR一志駅は三重県津市一志町八太にある東海旅客鉄道 (JR東海) 名松線の駅です。単式ホーム1面1線を有する地上駅で路線の北側にホームが配置されています。松阪駅管理の無人駅となります。1938年1月、伊勢田尻駅として開業しましたが、1968年10月、0.3km松阪駅寄りに移転し、現在の一志駅へ改名されました。駅舎も当時から使用されています。
さて、なぜ今回、「一志駅」のトイレを視察することにしたかというと、他の方が数年前に一志駅のトイレを調査して投稿され、情報元となったサイトにはかなり古そうな便器の写真が載っていたので、今回の旅行で一志駅のトイレを取材することにしました。前回の記事にも書いたよう、三重県には初めて足を運びました。
一志駅ホームにある看板です。
ホームから見たトイレ出入口の様子です。
トイレ出入口です。男女共用・大便器1室のみの小規模なトイレとなっています。
手洗器はTOTOのL60Nを1台使用していますが、後述する大便器の機種、建物の竣工時期から考えると以前はToyotokiマークのものを使用していたのではないかと思われます。
【珍品】トイレは汲み取り式の非水洗両用便器となっています。大便器は"大珍品"ともいうべきTOTO(Toyotokiマーク)のエプロン付C62 (YC62) を使用しています。これまで非水洗両用便器・エプロン付便器は常設のものは数えるほどに遭遇したほか仮設トイレでは何度か見かけましたが、TOTO製のエプロン付便器C62はここで初めて実機を目にしました。汲み取り式トイレ (ボットン便所) では普通の非水洗半穴便器(参考)が使用されていることが多く、両用便器は非水洗半穴便器よりも少ないうえにTOTO製であることが希少価値を増しています。非水洗ボットン便所の全盛期は明治時代以前~概ね平成初期ごろで、不動産サイトでは2000年代竣工の戸建でボットン便所があることを確認しているほか2003年竣工の駅トイレでもボットン便所があることを確認していますが、TOTOはボットン便所の全盛期である1970年代前半までには非水洗便器の製造を撤退しました。TOTOは水洗トイレの分野が大手であるため、他の衛生陶器業界よりも早く非水洗便器の製造を撤退したのかと把握していました (その可能性もあるとは思う) が、他者より頂いたコメントによれば"TOTOは1970年代、水洗トイレの勧めが強かったらしく、その関係で他メーカーよりも早く製造をやめたのではないかと思われる"とのことでした。TOTOマークの非水洗便器は和歌山県すさみ町の里野海水浴場のトイレや岡山市西区の山間のトイレでみたほか、岡山県総社市にある伯備線・JR日羽駅のトイレにはToyotokiマークの非水洗和式便器と出くわしましたが、数は多くはありません。
低めの視点で見た様子です。
前立を間近で見た様子です。
横から見た様子です。
Toyotokiマークです。前立の裏は傷が激しくかなり年季が入っていることがわかります。見ての通りロゴマークの横にはⓉの表記があります。筆者はこの表記の意味を「注文生産品?」と把握していましたが、他者の情報によればⓉの意味は「普及品」という意味を表しているとのことでした。筆者がコレクションで所持しているToyotokiマークの小型手洗器にもこれと同じ表記がされています。
窓も今となってはなかなかお目にかかれない木製のものを使用しています。
大鷲マーク時代(1957年度)のTOTO総合カタログ (今年10月に落札したが現時点では未公開) に掲載されているC62です。 TOTOは大鷲マーク時代から非水洗便器を製造していました。大鷲マーク時代は形状は異なっていたようです。余談ながらこの形を発見できた場合は奇跡ではないかと思います。
1967年度のカタログに掲載されているC62です。ご覧の通り、先述の大鷲マーク時代のカタログで掲載されているものと形が違うことがわかります。1967年度のカタログでは"C"ではなく、"YC"という品番になっています。おそらくToyotokiマーク時代に一時期はYCという品番だったのではないかと思われます。
こちらは東陶機器株式会社へ社名変更されたあとの1973年度のTOTO総合カタログに掲載されているC62です。この時点では品番もCに戻っています。先ほども書いたよう、TOTOは1970年代前半までには非水洗洋式便器C47を除き、廃番となりました。1976年度のTOTO総合カタログには掲載されていなかったのでその時点で廃番になっていると思われます。
先述のよう、エプロン付便器は仮設トイレでは何度か目にしました。画像はJanisのC7Mで、TOTOのC62と瓜二つの形をしている非水洗両用便器です。TOTOは40年以上前に既に廃番になっていて、Janisは現在も非水洗便器の製造はしているものの、数年前にエプロン付便器C7Mは廃番となったので、現在はアサヒ衛陶が唯一、エプロン付便器を製造しているのではないかと思われます。
※写真は一志駅のトイレではありません。
【コメント】
汲み取り式ボットン便所のわりには悪臭もなくきれいでしたが、小便器は設置されておらず、和式のみなので使用は困難ではないかと思います。そしてC62の実機を直接見られたことは奇跡だと思います。貴重なC62を見るために三重県まで電車で1時間以上かけて見に行った甲斐がありました。
コメント
コメント一覧 (14)
ToyotokiマークのC62は千葉県東金市内にある『松の湯』というかなり渋い銭湯にあったのですが、ロゴマークはJR伯備線日羽駅のC52と同タイプだったものの、照明が豆電球しかなく真っ暗な上にストロボも迂闊に使えませんでしたね。
私は大鷲マークのC62こそ見たことがないのですが、五重鷲マークのC62は大昔に地元で見たかもしれないと思います(1967年度のカタログと同様の形状だったと思うものの、現在は消滅)。それと似たような便器は岐阜県辺りを走る某私鉄(確か樽見鉄道だったと思うが、掲載サイトが閉鎖されたため確認不能。少なくともJRではなかったような・・)の駅トイレでべた付けで使用されていたと記憶しているのですが、記憶があやふやなので間違っている可能性もあり得ると思います。
あと、前記事で記載したToyotokiマークのC454の件なのですが、当時の写真を漁ったら後期Toyotokiマークの焼印が入っており、便座はTC271Nに交換されてました(小便器は中期型U37+ハイタンクによる連立洗浄)。
toyofan909
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仰られている通りC62は大珍品ですね。やはり銭湯でもボットンのところもあるのですね…。体をきれいにする場所にも関わらず衛生面悪そうですね…。実は沖縄でも1箇所だけボットンの銭湯があります。便器はメーカー不明の後期型の非水洗半穴便器でした(建物は60年経っているので一度取り替えられたと思われる)。伯備線・日羽駅にあるものと同じということは後期Toyotokiマークで、ロゴは小さいということですかね。豆電球しかないのはかなろ暗そうですね…。大鷲マークの初期型C62と似たような便器は数年前に他サイトで拝見しましたが、現在はそのBlogが削除されているので確認することごできません…。それから気になるのですが、他の方が10年以上前に取り上げられていたFC2の掲示板( http://starmania.web.fc2.com/list_025/index.html )の一番最後の写真にかなり古そうなエプロン付便器(前受がC-354やC75Aの初期型に近い)が写っていました。私の把握ですが、これは鳩マークのC-117でしょうか。TOTOは1960年代前半には前受の形状を変更しましたが、INAXは変わらなかったのでそこから考えるとその可能性がありそうですが…。
toyofan909
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C454の件はわかりました。小便器もToyotokiマークですかね。C454にしてもC138にしてもこれらの機種は駅舎や空港などで主に使用されたイメージがありますが、これらの施設は比較的近年のものに改修されている傾向にあるのでほとんど消滅しているのではないかと思われます。
toyofan909
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しかもきれいに保たれていますし驚きです
窓もあるので換気もされてますし安心できますね
だが紙やトイレマークはあってほしいですね
toyofan909
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こちらで設置されている和式便器は大珍品で、簡単には見つかりません。珍しいうえにToyotokiマークであることが希少価値を増大しています。窓があるので換気もされていると思いますし、仰られている通り安心できますね。この記事には載せていませんが、トイレマークはドアに貼られていました。確かに紙はあって欲しいですよね。無人駅のトイレは紙の備え付けがない傾向にありますね。
toyofan909
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私自身も古典的な器具に興味があり、製造時期の考察に関しても興味深く拝見しております。
本記事においても、かなり貴重な器具を実際にご覧になられたように見受けられ、長時間の移動が報われよかったですね!
本記事の内容と直接関係せず恐縮なのですが、TOTOロゴの刻印位置についての質問をさせて頂きたく思います。
こちらのページ(http://touchin.jugem.jp/?eid=74)のU23(だと思います)なのですが、一般的なU23が便器底部にTOTOロゴが刻印されているはずなのに対し、便器正面にロゴが刻印されております。
このような刻印位置となっていることについて、何か理由や背景をご存じでしょうか。
また、TOTOに限らず、衛生器具のロゴの刻印位置について何か決まりはあるのでしょうか。
もしご存じでしたらお教えいただけると嬉しいです。
初投稿で恐縮ですが、TOYOさん自身、相当衛生機器にお詳しいように思いますので、場違いながらお尋ねした次第です。
これからの調査及び研究がより一層進むことを心からお祈り申し上げます。
toyofan909
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はじめまして、ご来場ありがとうございます。古典的なトイレに興味があるのですね。私も知られている通り、近代的なトイレよりは古典的なトイレが好みです。この駅は先週視察して、他2軒も同じ日に廻りましたが、長時間の移動で疲れました。
問い合わせの内容ですが、まずリンク先は既に拝見していて、このU23についても前々から私も気になっていました。仰られている通り、U23は本来なら便器底部にロゴマークがありますね。大変申し訳ないですが、何故便器正面にロゴがあるかは私もわかりません。しかし疑問には思っていました。他の読者さんも疑問に思っていました。マークの位置ですと基本は小便器の場合は便器上部にロゴがあり、大便器は昔は便器上部にありましたが、今は側面にあるものが多いです。リンク先のU23のように所定の位置にマークがないものだと、C48やC720の便器側面にロゴが刻印されているものも実在していたこともありました。どちらも本来なら便器上部にロゴがあるはずですが。U23の便器正面にロゴマークがあるわけについての問い合わせでしたが、お役に立てず申し訳ありません。
期待の言葉をありがとうございます。私としてこれからも、見たいものがあれば自力で見に行きますので、今後ともよろしくお願いいたします。
toyofan909
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あと、件の便器はLIXIL(INAX)のC-117か否かは微妙かと思いますよ(件のアルバムを開設したトイレマニアさんはあまりチェックしてなさそうだったものの、私だと可能な限りメーカーロゴを調べることとしてるけど)。鳩マークのC-117は嘗て埼玉県深谷市内にあった姫の湯で見たことがあったのですが、もう少し直線的な形状だったと思います(現在は廃業により消滅したらしい)。
>後期Toyotokiマークで、ロゴは小さい~
確かにそうだったと思いますね。旧駅舎時代の東武鉢形駅だとロゴの大きい初期Toyotokiマーク&ロゴの小さい後期ToyotokiマークのC17と初期TOTOマークのU9&L5Dが混在していたと思うのですが、現在は駅改築で消滅したようです。
toyofan909
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過渡期仕様とは異なるのですが、13年前の時点では京阪樟葉駅にメーカーロゴの反転した初期TOTOマークのS45があったのですが、現存しているか否かは不明です(私も見たのですが、写真は私のではありません)。
http://starmania.web.fc2.com/list_019/page/0002.htm
>C48やC720の便器側面にロゴが~
それはCeFiONtect仕様の特注品だと思いますよ。あとWTCビル展望室の小便器も後期Toyotokiマークなのですが、数基かに『TOTO 九陶』と書かれたステッカーが張ってあったと思います。今年は厳しいかもしれないのですが、来年の長野初詣旅行の前に、寄れたら見に行けたらと思います(往路はバスタ新宿始発の高速バスに乗車予定なので)。
toyofan909
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いえいえ、とんでもございません。
TOYOさんも、他の読者さんも疑問に感じていらしたのですね。
この疑問に関しては、今後の研究次第ということになりそうですね。
リアルではあまり衛生陶器について話をする機会がないので、このようにインターネット上でお尋ねすることができ、嬉しく思います。
丁寧なご回答ありがとうございました!
toyofan909
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まず、前回の返信に誤字を発見しました。「豆電球しかないのはかなり暗そう」でした。アルバムを情報を参考に見物に行っていたのですね。23区にもボットンの銭湯があったのですか。23区ですから今はボットンなんて残っているはずはないですよね。最近聞いた情報では、東久留米市のとある公園( http://blog.livedoor.jp/jabonex/archives/24870073.html#more )にもボットンがあるそうです。しかも2000年前後ごろの竣工と見られ、年代的に考えると普通なら浄化槽だと思いますが、ボットンは驚きです。両用・エプロン付便器はこのC62、JanisのC7M、アサヒ衛陶のC110、nittoのエプロン付、Hokuyoのエプロン付は見たことがありますが、INAXのC-117はマークを問わず見たことがありません。ちなみにC-117は1955年ごろは品番がC-107となっており、形状は旧型のC62と同じ形であることが判明しています。やはり後期Toyotokiは小さいのですね。日羽駅のトイレで見たマークは現在のTOTO製品(LS125Dなど)で使用されているマークのように小さかったですよ。後期Toyotoki時代の他の製品はマークが大きいのに非水洗便器のみマークが小さいのは疑問に思いますね。
toyofan909
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Yellowさんが仰られているU23はそういう理由だったのですか。確かにToyotokiからTOTOへ変わったときは一部の商品を除き、マークの位置も変わりましたね (側面から上面など) 。これによってU23も最初は他の機器と同時にマークの位置を変えたのかもしれないが、結局は戻ってしまったということですかね。確かに便器のなかにロゴがあるのは不気味ですね。C375Vですが、大鷲マーク時代は給水口上部にロゴがあり、Toyotokiマーク時代はC750系と同様、右側にロゴがありますが、大鷲マークからToyotokiマークへ切り替わったころは給水口上部にロゴがあったそうです。アルバムは知っていましたがS45の写真は気付きませんでした。確かにロゴが反対なのは大珍品であるうえに機種自体が珍しいですね。
あ、説明不足でした。C48やC720の側面にロゴがあるものはCeFiONtect仕様の特殊品だったことは知っていました。「九陶」は福岡県以外にもあるのですか。九陶のシールが張られた衛生陶器は北九州市でよく見かけたので、調べたのですが、北九州市の水道工事指定店らしいです。WTCビル展望室の小便器はU37でしたね。U37は前期Toyotokiは見たことがありますが、後期Toyotokiマークは見たことがないですね。ToyotokiのC138があった世界貿易センタービル40階にも後期ToyotokiマークのU37があったと聞いています。40階にあったC138は後期Toyotokiマークでしょうか。
toyofan909
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返信が遅れすみません。例の小便器の件は私も疑問に思っていましたが、ななしのよっしんさんのコメントだとToyotokiマークから初期TOTOマークへの過渡期に焼き印が目に付きやすい位置に変更されたのではないかとのことでした。それは私も把握していませんでした。もしそうだったとしても結局は元の位置に戻ったことになります。
とんでもないです、こちらこそご丁寧にありがとうございます。また何かありましたらコメントください。改めて今後ともよろしくお願いいたします。
toyofan909
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京阪樟葉駅のS45に関しましては、2本あるホーム両端の計4基中1基がロゴ反転してたと思うのですが、通常だと不良品で廃棄されかねないと思いますね(トイレは初期TOTOマーク時代のものではなかったが、当時は京阪天満橋駅の片側のトイレに初期Toyotokiマークが右下{通常は左上}に焼印された過渡期仕様のS49が設置されていたものの、現在はWTC展望室と同様、当該トイレに多機能トイレが追設されているらしいので、消滅した可能性が高い)。
東京都東久留米市内にある不動橋グラウンドのトイレは2000年代前後施工で汲み取り式なのですか・・。東京23区内だと10年近く前まで小田急・京王下北沢駅近くにあった『下北沢駅前食品市場』の共同トイレも汲み取り式(現在は再開発に伴い解体され消滅)だったのですが、雲辺寺のトイレも2010年代竣工で汲み取り式というケースもありますね。
toyofan909
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